不動産投資の家賃下落はどれくらい?予測方法を解説
不動産投資において、投資家がエクセルを開いて最初に行う「利回り計算」。そこには通常、「現在の家賃」が数十年にわたってそのまま入り続けるという、ある種の希望的観測が込められています。しかし、現実の不動産市場において、家賃が永遠に一定であることはあり得ません。建物は年を重ねるごとに汚れ、古くなり、やがて新築の輝きを失っていきます。それに伴って入居者からの人気も落ち、結果として「家賃を下げる」ことでしか空室を埋められない状況が必ず訪れます。
「家賃が下がる」ということは、毎月の不労所得(キャッシュフロー)がダイレクトに減少し、物件の資産価値(売却価格)も連動して下落するという、不動産投資において最も恐るべき「真綿で首を絞められるようなリスク」です。もしあなたが、購入時の家賃そのままの金額で30年間のローンの収支シミュレーションを組んでいるのであれば、その投資計画は遅かれ早かれ確実に破綻します。
本記事では、約の徹底解説を通じて、そもそも「なぜ家賃は下がるのか」というメカニズムの根幹から解き明かします。そして、築年数の経過に伴って具体的に「毎年何パーセントずつ家賃は下落していくのか」という残酷なデータと、都心と地方などで全く異なる「エリアによる下落幅の違い」を客観的な数値とともに解説します。さらに最後には、時の流れに抗い、築古になっても高い家賃を取り戻すことができる「家賃が下がらない(あるいは上げられる)物件の絶対的な特徴と戦術」を伝授します。この記事を読めば、見えない家賃下落の恐怖を正確に「予測可能な数字」へと変え、より強固で安全な賃貸経営のプランを再構築することができるようになるでしょう。
家賃はなぜ下がるのか
家賃の下落(経年減価)は、不動産賃貸業というビジネスモデルにおいて絶対に避けては通れない自然の摂理です。では、なぜ築年数が経過すると家賃を下げざるを得なくなるのでしょうか。その理由は、大きく分けて「建物の物理的な陳腐化」と「相対的な競争力の低下」という2つの要因に分解されます。
? 設備の陳腐化と「新築プレミアム」の剥落
真っ先に影響するのが、建物や設備の物理的な老朽化です。新築の時は、誰も使ったことのないピカピカのキッチン、最新のシステムバス、傷一つないフローリングという「バージン(未使用)の価値」に対して、入居者は相場以上の高い家賃(いわゆる新築プレミアム)を喜んで支払います。
しかし、たった1日でも誰かが住んで退去した瞬間、その物件は「中古」へと格下げされます。最初の退去が発生する築3年〜5年のタイミングで、新築時につけられていた1割〜2割の「プレミアム価格」は一気に剥がれ落ち、周辺の中古物件と同じ「通常の相場家賃」へと是正されます。さらに時間が経過し、築10年、15年となると、設置されている設備自体が「時代遅れ」になります。例えば、かつては最新だった「2ハンドル混合水栓」や「モニターなしインターホン」は、現代の入居者から見ればただの古い設備であり、最新設備を備えたライバル物件との比較において明確な「減点対象」となります。この設備的・物理的なマイナスポイントを補うための一番手っ取り早い手段として、オーナーは「家賃を下げる(ディスカウントする)」という選択を迫られるのです。
? 新規供給による「相対的な競争力」の低下
家賃下落のもう一つの大きな要因が、市場における「相対的な立場の低下」です。あなたが物件を買った後も、そのエリアには毎年必ず新しいアパートやマンションがバンバン建てられ、賃貸市場に供給され続けます。
日本の総人口が減少しているにも関わらず、新築物件は供給され続けるため、賃貸市場は常に「パイの奪い合い(供給過多)」の状態にあります。入居者がお部屋探しをする時、当然ながら「同じ家賃なら、より新しくて綺麗な物件」を選びます。あなたの物件の周辺に、強力な新築や築浅のライバル物件が次々と登場することで、あなたの物件の「エリア内での順位」は年々自動的に押し下げられていきます。
結果として、これまで家賃7万円で決まっていた部屋が、新築のライバル物件(家賃7.5万円)に客を奪われるようになり、「6.5万円に下げないと見学にすら来てもらえない」という状況に追い込まれます。これが、競争力の低下による強制的な家賃下落のメカニズムです。
築年数と下落率
家賃が下落するメカニズムを理解したところで、投資家として最も知りたいのは「実際のところ、毎年どれくらいのペースで家賃は下がっていくのか?」という具体的な数字(下落率)でしょう。これは多数の不動産データバンクや学術論文によって、明確な統計データとして可視化されています。
全体平均は「年間約1%」の下落
全国の賃貸マンションやアパートの膨大な成約データを分析すると、家賃の経年下落率は、平均すると「1年経過するごとに、マイナス1%前後」で推移することが分かっています。
つまり、新築時に家賃10万円で貸し出していた部屋は、築10年で約9万円(マイナス10%)、築20年で約8万円(マイナス20%)になるのが一般的な目安です。もしあなたがローンのシミュレーションを行うなら、最低でも「毎年家賃が1%ずつ下がる」というストレス(負荷)をエクセルに組み込み、それでもローン返済後にキャッシュフローがプラスになる(赤字にならない)ことを必ず確認しなければなりません。
「L字型(または逆バスタブカーブ)」の下落モデル
ただし、この「年間1%減少」というのはあくまで平均であり、実際の下落グラフは綺麗な右肩下がりの直線にはなりません。現実の家賃下落は、特定の時期に急激に落ち込み、その後は緩やかになるという「L字型」のカーブを描きます。
【第1段階:築0年〜築10年(急落期)】
新築から築10年までの期間は、家賃が最も大きく下落する時期です。前述した「新築プレミアムの剥落」が直撃するため、最初の一度の退去で家賃が5%〜10%一気に落ち込むことも珍しくありません。この期間は、年間1.5%〜2%近いスピードで家賃が急激に削られていきます。
【第2段階:築10年〜築25年(緩やかな下落期)】
築10年を過ぎて完全に「中古物件」としての相場に落ち着くと、下落のスピードはやや緩やかになります。年間0.5%〜1%程度の地道な下落が続きますが、この時期に「大規模修繕」や「設備の最新化」を適切に行うことで、下落スピードをさらに食い止めることが可能です。
【第3段階:築25年〜築30年以降(底値安定期)】
築25年、30年を超えると、家賃下落のグラフは奇妙なことに「フラット(横這い)」に近づきます。なぜなら、家賃には「これ以上は下がらない生活保護の住宅扶助額」や「その地域の最低限の生活水準を維持できる底値」という明確なラインが存在するからです(例えば地方で2万円、都市近郊で3万5千円など)。そこまで落ち切ったボロ物件の家賃は、そこから築40年になろうが50年になろうが、事実上ほぼ下がらなくなります。(※ここを狙って高利回りを叩き出すのが築古投資の真髄です)。
エリアによる違い
築年数ごとの一般的な下落率を解説しましたが、実は「どのエリアに物件を持っているか」によって、家賃の下落スピード(耐性)は天と地ほどの差が出ます。エリアの持つ「需要の強さ」が、家賃下落を最も強力にブロックする盾となるのです。
都心・都市部:「需要超過」による下落の相殺(時に上昇も)
東京23区や大阪中心部などの好立地エリアでは、家賃下落のスピードが全国平均よりも劇的に遅くなります。場合によっては築10年、15年経っても「家賃が全く下がらない」、あるいは地価や物価の上昇に引っ張られて「購入時よりも家賃が上がる」という現象すら頻発します。
理由はシンプルで、「そのエリアにどうしても住みたいという人の数(需要)」が、「貸し出される部屋の数(供給)」を常に上回っているからです。古くなろうが設備が多少劣っていようが、「この駅から徒歩5分以内で家賃10万以下なら、中身は気にせず即決します!」という入居者が行列を作っている状態です。需要が供給を圧倒的に凌駕している都心の一等地に物件を持てば、家賃下落の恐怖からは半永久的に解放されます。(ただし、その分物件価格が異常に高く、初期の利回りが低いのは前述の通りです)。
地方・郊外:「競争激化」による無慈悲な価格破壊
一方、人口が減少している地方都市や、都市部から遠く離れたベッドタウンの駅から徒歩20分以上のバス便エリアなどでは、家賃下落のスピードは平均の1%を遥かに超えて加速します。
地方では土地が余っているため、相続税対策などで次々と新しいアパートが乱立します。しかし肝心の「住む人(若年層)」はどんどん都市部へ流出しているため、需要と供給のバランスが完全に崩壊(供給過多)しています。このようなエリアでは、入居者(借り手)の立場が圧倒的に強くなり、「少しでも古ければ、家賃を極限まで下げないと絶対に入らない」という価格破壊のチキンレースが始まります。
築20年で家賃が新築時の半分(マイナス50%)にまで暴落し、さらには広告料(AD)を家賃3ヶ月分も払わなければ空室が埋まらない、という負の泥沼に足を踏み入れることになります。地方の高利回り物件を買う際は、「家賃が将来激しく下落し、募集コストも跳ね上がる」という強烈なワーストシナリオを必ずエクセルに組み込んでおく必要があります。
下がらない物件の特徴
家賃下落は避けられない宿命のように思えますが、実は適切な戦略と物件選びの「目利き」ができれば、時の流れによる下落スピードを限界まで遅らせ、高い収益性を維持し続けることが可能です。最後に、年数が経っても「家賃が下がらない(強い)物件」の3つの特徴をご紹介します。
? 唯一無二の「立地」と「広さ」を持っている
究極の防御力は「代替不可能性(他に代わりがないこと)」です。「駅から徒歩1分」という立地や、「大型犬・猫が複数飼育できる完全ペット共生型」「楽器演奏が可能な防音室完備」といった強力な特化型コンセプトを持った物件は、周辺の新築アパートとは一切の価格競争に巻き込まれません。
また、単身用(1R・1K)のアパートは供給が最も多く競争が激しいため家賃が下がりやすいですが、「60平米以上のファミリー向け(3LDKなど)」の賃貸物件は、分譲マンションに比べて圧倒的に供給数が少ないため、小学生の子供を持つ世帯からの需要が決して途切れず、家賃下落が非常に起こりにくいという強い特性を持っています。
? 「適切なリノベーション」によるバリューアップ
物理的な陳腐化に対しては、「投資(お金をかけること)」で殴り勝つのが最強の戦術です。築20年を超えて家賃下落が顕著になってきたタイミングで、ただ家賃を下げるのではなく、費用を投じて「現代のニーズに合った部屋」へとリノベーションを行うのです。
例えば、人気のない和室を全て「広々とした洋室(LDK)」に間取り変更し、古いブロックキッチンを「システムキッチン」に交換、さらに「無料の高速インターネット」と「宅配ボックス」を設置します。300万円のリノベーション費用をかけたとしても、これによって家賃を以前より1万5千円高く設定でき、かつ一瞬で空室が埋まる(満室になる)のであれば、それは家賃下落を防ぐどころか「物件の価値を引き上げた(バリューアップ)」ことになります。費用対効果を見極めながら設備更新を続けられる強い資金力を持ったオーナーの物件は、決して古びることはありません。
? 管理会社の「卓越したリーシング力」
そして最後に、家賃を下げないための最大の防波堤となるのが「優秀な管理会社(仲介会社)の営業力」です。
ダメな管理会社は、空室が出ると「オーナーさん、最近周辺で新築が出たので、家賃を5千円下げないと決まりませんよ」と、最も安直でオーナーの利益を削る提案をしてきます。
しかし優秀な管理会社は、「家賃は一切下げません。その代わり、募集図面(マイソク)の写真をプロのカメラマンに撮り直し、ウォークインクローゼットの広さをアピールするキャッチコピーに変更して、周辺の仲介会社上位50店舗に明日から徹底的にローラー営業をかけます。また、入居時のフリーレント(初月家賃無料)を付けることで、毎月の家賃収入自体は堅持しましょう」と、価値を下げずに決めるための労力(営業力)を惜しみなく注ぎ込みます。
自分の利益を守るために戦ってくれる管理会社を選ぶことが、家賃下落という見えない敵と戦うための最大の武器となるのです。
まとめ
不動産投資において、「現在取れている家賃が将来もずっと入り続ける」という幻想は、最も危険な希望的観測です。
家賃は、設備の老朽化と新築物件の容赦ない供給によって、全国平均で「毎年約1%」というペースで、L字型のカーブを描きながら静かに、しかし確実に下落していきます。特に、人口減少が進む地方や郊外バス便エリアでは、需要の欠如による激しい価格破壊の波に飲み込まれることになります。
しかし、この下落のメカニズムを事前に正確に予測(シミュレーション)し、ローンの返済計画にしっかりとストレスをかけておけば、下落自体は決して恐れるものではありません。さらに、「圧倒的な立地の優位性」や「ファミリー向けという希少性」を選び抜き、適切なタイミングで「リノベーションによる価値の再生」を行い、戦ってくれる「優秀な管理会社」を味方につけることで、家賃下落のベクトルを力強く押し返すことが可能です。
目先の高利回り(現在の家賃)だけを追いかけるのではなく、「10年後、20年後の家賃(最悪のシナリオ)」を冷徹に見据えた者だけが、不動産投資という長い航海を生き抜き、安定した富を築き上げることができるのです。ぜひ、購入前の厳しいシミュレーション表作りに挑戦してみてください。