不動産投資の法人化はいつする?個人との違いを解説
不動産投資の規模が少しずつ拡大し、毎月の家賃収入(キャッシュフロー)が増えてくると、投資家たちの間で必ず議論の中心となるテーマがあります。それが「法人化(資産管理法人の設立)」です。
不動産投資関連の書籍やブログを読むと、「税金を劇的に安くするためには、できるだけ早く法人化すべきだ!」と声高に主張する意見がある一方で、「安易な法人化は赤字を垂れ流すだけの地獄の始まりだ。個人のまま進めた方が手残りは多い」と警鐘を鳴らすプロも存在します。全く正反対の意見が飛び交うのは、法人化が魔法の杖ではなく、「強力なメリット」と「無視できないデメリット」を併せ持つ複雑な仕組みだからです。
結論から申し上げますと、法人化すべき絶対的な「唯一のタイミング」は存在しません。なぜなら、あなたの本業の年収、保有している(これから買おうとしている)物件の戸数や利益額、そして最終的に「不動産投資でどこまで規模を拡大したいのか」という目標地点によって、法人化の損益分岐点は動的に変化するからです。
本記事では、約の特大ボリュームで、個人事業主としての不動産賃貸業と法人による不動産経営の「税率」や「経費」の根本的な違いを徹底比較します。その上で、法人化に伴う社会保険料や設立・維持の手間といったリアルなデメリットに切り込み、最終的に「年収別」および「戸数(規模)別」の明確な判断基準(ベストなタイミング)を提示します。この記事を読めば、あなたが今すぐ法人化に向けて準備を始めるべきか、それともまだ個人のままで力を蓄えるべきかがハッキリと理解できるはずです。
法人化のメリット
なぜ多くのメガ大家(大規模投資家)たちは皆、法人を設立して物件を所有しているのでしょうか。法人化のメリットは多岐にわたりますが、最大の目的は「圧倒的な節税効果」と「利益のコントロール(内部留保)」に尽きます。個人と法人で、税金のルールがどのように異なるのかを見ていきましょう。
「税率」の劇的な逆転現象
個人の所得税は、「累進課税制度(るいしんかぜいせいど)」という仕組みを採用しています。これは、所得(給与収入+不動産所得などの合計)が増えれば増えるほど、税率が段階的に高く跳ね上がっていくという非情なシステムの事です。個人の所得税率の最大は45%(所得4,000万円超)、これに住民税の10%が加わると、最高でなんと55%にも達します。つまり、個人のままで不動産投資を大成功させ、年間数千万円の家賃収入を得たとしても、その半分以上は問答無用で国と自治体に真っ先に奪い取られてしまうのです。これでは、次の物件を買うための頭金(キャッシュ)が手元に全く残りません。
一方、法人が支払う「法人税(法人実効税率)」は、国に定められた「一定の税率(比例課税)」に近い形をとります。法人の規模や地域によって若干異なりますが、利益が800万円以下の部分は約23%、800万円を超えた部分でも約33%で頭打ちとなります。
この「最大55%」対「最大で約33%」という強烈な税率の差が、法人化の最大のメリットです。ある一定の利益水準(損益分岐点)を超えた瞬間から、個人の税率が法人の税率を上回る逆転現象が起きます。このタイミングで法人化(または法人での新規物件取得)を行えば、国に支払う税金を劇的に圧縮し、手元に残る現金(内部留保)を最大化して、次の物件の購入スピード(雪だるま式拡大)を加速させることが可能になるのです。
「経費」として認められる範囲の圧倒的な拡大
法人化のもう一つの巨大なメリットが、「経費(損金)として計上できる範囲の広さ」と「利益分散の仕組み」です。
個人の不動産所得の計算において、経費として認められる壁は非常に高いです。例えば、物件を見に行くための自分の車のガソリン代や、情報収集のための飲食代などは「事業との関連性の明確な証明」が厳しく求められ、税務調査で否認されるリスクが常に付きまといます。また、自分自身や配偶者に「給与」を支払って経費にする(専従者給与)ためにも、厳しい条件と手続きが存在します。
しかし法人であれば、これは「事業を行うための会社」であるため、ルールは大きく変わります。経営者であるあなた自身に「役員報酬」を支払うことで、法人の利益を合法的に減らしつつ、個人の「給与所得控除(サラリーマンと同じ非課税枠)」を利用したダブルの節税が可能になります。さらに、配偶者や子供を法人の役員や従業員にすることで、利益を家族に分散して(所得の低い家族に給与を払い、全体の税率を下げる)手残りを増やすことができます。 また、経営者の生命保険料(一部)、社宅制度の活用、出張手当の支給など、「法人のルール(定款や規定)」を整備することで、個人の時には絶対に認められなかった多種多様な出費を、法人の経費として計上し、合法的に税金をコントロールする(利益を圧縮する)ことができる魔法のポケットを手に入れることができるのです。
デメリット
法人化は節税のチートツールのように見えますが、光の裏には必ず影が存在します。「とりあえず法人を作っておけば得をする」と考えて安易に設立し、痛い目を見る投資家は後を絶ちません。法人化がもたらす重いランニングコストと見えない手間に目を向けてみましょう。
逃れられない「社会保険料」の重圧
法人化の最大のデメリットにして、絶対に計算から漏らしてはならないのが「社会保険(健康保険・厚生年金)の強制加入」です。個人事業主であれば、国民健康保険と国民年金で済みますが、法人を設立して役員報酬を1円でも支払うと、その法人は社会保険の適用事業所となり、経営者(あなたや家族)は社会保険に強制加入となります。
社会保険料は非常に高額で、給与額の約30%を占有します(労使折半という仕組みですが、あなたが社長なので結局法人の財布から全額出ることになります)。たとえば、あなたと配偶者に合算して年間500万円の役員報酬を出した場合、約150万円という凄まじい額の社会保険料を毎年国から徴収されます。 「法人税を年間50万円節税できたが、社会保険料が年間150万円増えた結果、手元のお金は個人時代よりも100万円減ってしまった」という【社会保険料倒れ】は、初心者が最も陥りやすい罠です。(※本業のサラリーマンを続けながら法人を作り、そこから役員報酬をゼロにする、といった特殊なスキームもありますが、ここでは割愛します)。
設立費用・維持費用という「赤字の垂れ流し」
法人は、息をしているだけでお金が減っていくシステムです。まず、株式会社(または合同会社)を設立するために、数十万円の設立費用(登録免許税、定款認証代、司法書士への報酬など)という初期投資が必要です。
さらに恐ろしいのが、法人の赤字に関わらず毎年強制的に徴収される維持費用です。「法人住民税の均等割」という税金があり、どんなにその法人が赤字(家賃収入が少なく経費が多い)であっても、法人が存在する限り毎年必ず【約7万円】を国に上納しなければなりません(個人の場合は赤字なら所得税ゼロです)。
また、法人の決算申告は個人の確定申告と次元が違うほど複雑であり、素人が自力で行うことはほぼ不可能です。必ず税理士と顧問契約を結ぶ必要があり、その顧問料と決算申告料で年間30万円〜50万円程度の出費が固定費として恒久的にズシリと乗しかかってきます。つまり、法人は「毎年何もしなくても約40万円〜60万円のランニングコストが確定で発生する箱」なのです。この固定費を上回るだけの「節税効果(利益)」がなければ、法人はただの金食い虫に成り下がります。
融資の壁(個人の属性が使えない)
個人の融資(アパートローン等)は、本業の給与収入(属性)を信用担保にして借りることができます。しかし、新設した法人で物件を購入する場合、銀行は「実績ゼロ、売上ゼロの得体の知れない会社」として極めて厳しい目を向けます。(もちろん代表者である個人の連帯保証は求められますが、それでも個人の時ほどスムーズにはいきません)。 特に最初の物件を法人で購入しようとした場合、プロパー融資(銀行独自の事業用融資)の厳しい審査を突破するか、高い金利のノンバンクを利用せざるを得ないなど、「融資の引けなさ(スピードの遅さ)」に苦しむケースが多発します。
年収別判断基準
それでは、メリット(節税)とデメリット(維持費・社保)の損益分岐点を踏まえ、まずは「あなたの本業の年収」ベースでの法人化の判断基準(ベストなタイミング)を解説します。
本業年収が「500万円〜800万円以下」の層
【結論:まだ個人のままで進めるべき。焦る必要なし】
この年収帯の方は、個人の所得税・住民税の合計税率が概ね「20%〜23%」の範囲に収まっています。一方で、法人の実効税率も最低で「約23%前後」、さらに法人維持費(年間50万円)が乗しかかってきます。 税率にほとんど差がない(むしろ個人のほうが有利なケースもある)状態で法人を作っても、節税メリットは全く享受できず、税理士への顧問料と均等割の支払いだけが虚しく増えることになります。まずは個人の名義で中古アパートや区分マンションを買い進め、毎月のキャッシュフローと経験値を蓄えることに専念すべきフェーズです。
本業年収が「900万円〜1,000万円以上」の層
【結論:第一歩(最初の1棟)から法人化を強く検討すべき黄金ゾーン】
本業の給与収入だけで900万円を超える所得がある層は、状況が一変します。このラインを超えると、個人の限界税率(所得税+住民税)が一気に「33%〜」へと跳ね上がります。
この状態で個人の名義で利益の出る不動産(数百万の年間利益が出るアパートなど)を購入してしまうと、本業の給与所得の上に乗っかる形で不動産所得が合算(総合課税)され、不動産で稼いだ利益の40%近くが税金として消し飛びます。さらに翌年の個人住民税も激増し、現金が全く手元に残らない悲惨な状況に陥ります。
したがって、本業が高年収(医師、弁護士、外資系エリートなど)の方は、「不動産投資のスタートの時点」からプライベートカンパニー(資産管理法人)を設立し、最初から法人名義で物件を所有し利益を法人という全く別の箱に切り離してプールする(そして個人の高い税率の直撃を避ける)という高度な戦略が、ほぼマスト(必須)となります。
戸数別判断基準
年収ベースだけでなく、保有している(これから目指す)不動産の「規模(戸数や家賃収入の額)」から見た法人化のタイミング(個人から法人への切り替え時期)というのも、不動産投資業界の重要なセオリーとなっています。
「月額家賃収入100万円」あるいは「給与以外の所得500万円」の壁
本業の年収が平均的な(500万〜600万円程度の)サラリーマンが、個人名義の手堅い投資をコツコツと続け、資産を拡大していったとします。その場合、「毎月の総家賃収入(満室想定)が100万円を超えた時(年収1,200万円規模)」、あるいはローン返済や経費を差し引いた後の「個人の不動産所得(利益)が年間500万円に達した時」が、法人成り(個人から法人へ事業を移行する)の明確なアラート(サイン)となります。
この規模(例えば、アパート2棟で合計20室などを保有している状態)になると、本業の給与と合わせた個人の総所得が1,000万円の大台を突破し、前述した「個人の最高税率の急激な跳ね上がり(33%以上の壁)」に激突します。 また、この規模の利益(500万円以上)が出ていれば、法人の維持費(税理士報酬等50万円)を払ってでも、個人の税率と法人税率の差額を利用した節税効果(および家族を役員にして給与分散する効果)が、コストを圧倒的に上回り、トータルでの手残りの現金が数十万円から百万円単位で逆転して増え始めるブレイクスルーポイント(損益分岐点)となります。
将来の「メガ大家」を目指すなら最初から?
もしあなたの最終的な目標が、「家賃収入30万円の毎月のお小遣いが得られれば満足(戸建て数戸やアパート1棟で終了)」というレベルであれば、一生個人のままで進めた方が、税理士費用もかからず手残りは最大化されます。
しかし、「最終的には5棟、10棟と買い進め、家賃収入数千万円のメガ大家になり、完全に脱サラ・FIREしたい」という強烈で野心的な目標がある場合は話が別です。途中で個人の名義で買った物件を法人に移し替える(法人に売却する)という行為は、不動産取得税や登記費用といった数百万単位の莫大な無駄なコストを発生させます。
将来の巨大な規模拡大(=個人の税率暴騰による破綻)が初めから完全に確定しているのであれば、現在の年収が低く、一時的に税理士費用の赤字(持ち出し)が発生したとしても、「最初の1棟目から赤字覚悟で法人を箱として作り、そこに物件を蓄積していく(実績を積んで、2棟目以降の法人プロパー融資を引きやすくする)」という、数年後を見据えた強気な先行投資(戦略的法人化)も、十分検討に値するプロの手法となります。
結論
不動産投資における「法人化のタイミング」。その最終的な結論は以下の3つのパターンのいずれかに帰結します。
【パターン1:一生個人のままで良い人】
本業の年収が平均的(800万円以下)で、最終的な投資目標も「毎月10万〜20万程度の安定した副収入(キャッシュフロー)で十分」という方。法人の維持費や社会保険料のデメリットが節税メリットを上回ってしまうため、確定申告だけを自分で行い、手残りを最大化する「個人規模の究極体」を目指すのが正解です。
【パターン2:途中で法人成り(切り替え)すべき人】
本業の年収が平均的だが、「少しずつ資産を拡大し、いずれは脱サラも視野に入れたい」という手堅い方。最初は個人の信用属性を利用してアパートや戸建てを融資で購入し、経験と現金を蓄えます。そして、家賃収入(売上)が年間1,000万円を超え、不動産の利益が500万円を突破したタイミングで、税制の逆転現象を狙って法人を設立する、最も王道で失敗の少ないルートです。
【パターン3:最初の1棟目から法人を作るべき人】
本業の高年収(900万円以上)が既に個人の高税率に直撃しており猛烈な節税が必要な方。あるいは、初めから数億円規模のメガ大家になるという揺るぎない覚悟と豊富な自己資金がある方。法人の維持コストという目先の赤字を許容してでも、「未来の爆発的な拡大に向けた器(箱)」を最初から作り上げ、銀行との法人としての取引実績をゼロから構築していく最短距離のルートです。
「周りが法人を作っているから」「税金が安くなると本に書いてあったから」という表層的な理由で動いてはいけません。現在の自分の「年収(税率)」を正確に把握し、未来の「自分の目標とする規模」から逆算できた投資家だけが、法人の絶大な力(節税と内部留保のレバレッジ)を味方につけ、爆発的な資産拡大を実現することができるのです。この記事の基準を元に、ご自身の最適なタイミングを見極めてください。