地方の高利回り物件は危険?初心者が失敗する理由
不動産投資のポータルサイトを眺めていると、時折目を疑うような数字が飛び込んできます。「表面利回り15%」「表面利回り20%超え」。こうした超高利回りの数字が躍る物件の多くは、東京などの大都市圏から遠く離れた、人口数万人規模の地方都市に存在するアパートや戸建てです。「都心の物件は利回りが4%程度しかないのに、地方ならその数倍のスピードで家賃収入が入ってくる。これなら短期間で投資資金が回収できるのではないか?」――不動産投資を始めたばかりの初心者ほど、この強烈な数字の魔力に魅入られ、地方の高利回り物件へと惹きつけられていきます。
しかし、不動産投資の世界には「ノーリスク・ハイリターン」という魔法は絶対に存在しません。高い利回りが設定されている裏には、プロの投資家でも手を焼くような「極めて深刻で致命的なビジネス上のリスク(=儲からない理由)」が必ず隠されています。表面上の利回りにつられて数字の計算だけで物件を購入した結果、想定外の空室や修繕費に苦しみ、ローンの返済に行き詰まって自己破産にまで追い込まれる初心者は後を絶ちません。
本記事では、なぜ地方の物件がそれほどまでに高い利回りで売られているのかという根本的なカラクリから、購入後に直面する「実際の収支」の残酷な現実、そして初心者が絶対に避けるべき理由まで、約の圧倒的なボリュームで徹底解説します。もちろん、地方投資のすべてが悪というわけではなく、一部の「成功する例外パターン」も存在します。この記事を最後まで読めば、高利回りという甘い罠を見破り、数字の奥に潜む真のリスクを正確に査定するための「プロの投資家の目線」を身につけることができるでしょう。
なぜ利回りが高いのか
地方の物件が、都心の物件では考えられないような15%や20%といった超高利回りで市場に出回っているのには、明確な理由があります。利回りとは「得られる家賃収入」を「物件の購入価格」で割ったものです。つまり、利回りが高いということは「家賃に対して物件価格が異常に安い」ということを意味します。では、なぜそこまで安く売らざるを得ないのか。その背景には、「需要の欠如」と「融資の壁」という2つの巨大な問題が横たわっています。
絶望的な「需要」の欠如と人口減少
地方物件の価格が安い最大の理由は、シンプルに「そこに住みたいと思う人(賃貸需要)が極端に少ないから」です。日本の人口は減少トレンドに入っていますが、その減少のスピードは全国一律ではありません。若年層が進学や就職を機に大都市圏へ流出するため、地方都市、特に駅から遠い郊外や山間部では、深刻な急激な過疎化と高齢化が進行しています。
賃貸を借りるメインの層は20代から30代の若年層ですが、その絶対数が圧倒的に不足しているのです。需要がなければ、どんなに家賃を下げても入居者は現れません。一度空室になると、半年や1年といった長期にわたって空室が埋まらないのが地方物件の日常です。売主(現在のオーナー)は、入居者が決まらず毎月の維持費や固定資産税だけを払い続ける「負動産」となっている現状に耐えきれず、損を承知で(つまり物件価格を極限まで下げて)手放そうとします。その結果として、計算上の表面利回りだけが異常に高く跳ね上がっているのです。「利回りが高いから儲かる」のではなく、「儲からない(誰も借りない・買わない)から価格を下げざるを得ず、結果として計算上の利回りが高くなっているだけ」というのが真実なのです。
地方物件に立ちはだかる「融資」の厳しい壁
もうひとつ、物件価格を押し下げ(=利回りを押し上げ)ている強力な要因が、金融機関による「融資の厳しさ」です。不動産を購入する際、ほとんどの人は銀行からローン(融資)を借りて購入します。しかし、人口減少が著しい地方の築古アパートに対して、銀行は非常に冷ややかな評価を下します。
銀行は「お金を貸しても、家賃収入が途絶えて返済されなくなるリスクが高い」「万が一返済が滞った時に物件を差し押さえて競売にかけても、買い手がつかず資金が回収できない」と考えます。そのため、地方の高利回り物件に対しては、融資期間が異常に短く設定されたり(通常20年〜30年引けるところが、10年しか引けないなど)、評価額が伸びず多額の頭金(自己資金)を要求されたり、最悪の場合は融資自体を完全に拒否(フルローン不可)されます。
融資が引けないということは、その物件を買える人が「数千万の現金(キャッシュ)を一括で払える富裕層」に極端に限定されることを意味します。買い手のパイが極端に小さくなるため、価格はさらに崩落し、現金買いの投資家向けに「表面利回り20%」といった強烈なディスカウント価格で提示せざるを得ない構造になっているのです。
実際の収支
ポータルサイトの「満室想定」の利回り計算では、不動産投資はバラ色に見えます。たとえば2,000万円で利回り15%のアパートを買えば、年間300万円の収入が得られ、7年弱で元が取れる計算になります。しかし、現実の賃貸経営(実際の収支)は、机上の計算通りになど絶対にいきません。地方高利回り物件の収支を劇的に悪化させる2つの最大の敵、「空室率の高さ」と「容赦ない修繕費」の実態を見ていきましょう。
想定をはるかに超える「空室率」と「募集コスト」
前提として、地方の高利回り物件で「常に満室」を想定すること自体が狂気の沙汰です。前述の通り絶対的な需要が不足しているため、ひとたび退去が発生すれば、半年間の空室は当たり前、条件が悪ければ1年以上空室のまま放置されることも珍しくありません。もし8部屋あるアパートで常に3部屋が空いている状態(空室率約37%)が常態化すれば、表面利回り15%は、実質的な稼働利回りでたちまち10%未満へと転落します。
さらに恐ろしいのは、空室を埋めるために莫大な「募集コスト(広告宣伝費:AD)」がかかることです。地方では賃貸需要に対して供給(空室)が過剰であるため、入居者よりも「不動産仲介会社(客付業者)」の立場が圧倒的に強くなります。仲介会社に自分の物件を優先的に紹介してもらうために、オーナーは通常の仲介手数料に加えて、家賃の2ヶ月分、3ヶ月分、場合によっては半年分といった異常な額の広告宣伝費(AD)やインセンティブを仲介会社に支払わなければなりません。加えて、最初の数ヶ月間の家賃を無料にする「フリーレント」の付与も必須条件となります。結果として、新しい入居者が決まっても、最初の半年から1年間の家賃収入はすべてこれらのコストで吹き飛び、実質的な手元に残る現金(キャッシュフロー)は絶望的なまでに減少するのです。
利回りを一撃で破壊する「修繕費」の罠
高利回りの地方物件は、ほぼ例外なく「築年数の古い(築20年〜40年以上)木造アパートや戸建て」です。建物は老朽化しており、購入した直後から、あるいは数年のうちに、避けては通れない大規模な修繕のラッシュが訪れます。
例えば、屋根の雨漏り補修に150万円、外壁の再塗装に200万円、給排水管の破裂やシロアリ被害の補修に数十万円といった具合です。ここで極めて重要な残酷な事実があります。それは「家賃が安くても、修繕にかかる建築資材や職人の人件費は全国どこでも(都心でも地方でも)変わらない」ということです。
都心の家賃10万円の部屋でお風呂(ユニットバス)を50万円で交換するのと、地方の家賃3万円の部屋でお風呂を50万円で交換するのでは、収益に対するダメージが全く異なります。地方物件の安い家賃では、一度の大きな修繕工事を行うだけで、その部屋から得られる数年分の家賃収入が一瞬にして消滅してしまいます。表面利回り20%で買ったつもりが、外壁塗装と水回りの一斉リフォームを行った結果、投下した総資金に対する実質利回り(ネット利回り)を計算し直すと、実は5%や6%にまで落ち込んでいた、というのは地方ボロ物件投資の「あるある」です。
成功する例外
ここまで地方高利回り物件の恐ろしさを語ってきましたが、それでは地方投資は絶対にやってはいけないのかというと、そうではありません。徹底したリサーチと経営努力により、地方特有の高い利回りを現実のキャッシュフローに変えている優れた投資家も確かに存在します。彼らが狙い撃ちにする、地方であっても賃貸需要が強固に維持される「例外的なエリア」のパターンをご紹介します。
市役所や大型病院が牽引する「公共ドミナントエリア」
地方都市であっても、その地域の行政・医療の中枢となる機関が集中しているエリアは、非常に強力な投資適格地域となります。具体的には、県庁や市役所、さらには日赤病院や大学病院などの数百床規模の地域基幹病院が密集している中心市街地です。
このようなエリアでは、役所の公務員や病院の医師、看護師といった「所得が高く、職業が極めて安定しており、かつ属性が良い(家賃滞納リスクが低い)」層の賃貸需要が絶えず発生します。また、これらの施設に出入りする関連企業(医療機器メーカーなど)の営業マンの転勤需要も取り込むことができます。地方において「公務員と医療関係者」は最強のターゲット属性であり、彼らが徒歩や自転車で通勤圏内となるエリアに物件を仕込むことができれば、地方の中では別格の安定稼働と高利回りの両立を実現することが可能です。
単一依存を回避した「巨大工業都市」
もう一つの狙い目が、強力な雇用創出力を持つ「巨大な工業集積地」です。ただし、前回の記事で触れた「単一の工場に依存する街」は、その工場が撤退した際のダメージが致命的となるためNGです。ここで言う例外は、トヨタ自動車のお膝元である愛知県豊田市や、様々な重化学工業・部品メーカーが湾岸や広大な内陸工業団地に無数に集積している「多様性のある工業都市」を指します。
こうしたエリアは、日本全国、あるいは海外からも労働力(期間工、派遣社員、外国人労働者など)が絶え間なく流入するため、圧倒的な単身者向けの賃貸需要が存在します。工場勤務者の場合、駅からの徒歩距離よりも「勤務先の工場までの車での通勤のしやすさ」や「駐車場の広さ・停めやすさ」が圧倒的に重視されます。そのため、駅からは遠く離れていて物件価格が安い(=利回りが高い)のに、常に工場の労働者で満室になるという、投資家にとって非常においしい「歪み」が生じやすいエリアなのです。外国人労働者の受け入れ(法人契約など)に柔軟に対応する管理姿勢を持てば、圧倒的な高稼働を誇るエース物件となる可能性を秘めています。
初心者が避けるべき理由
成功する例外パターンも紹介しましたが、それでもやはり、最初の1棟目から地方の高利回り(築古ボロ)物件に手を出すことは、初心者には絶対におすすめできません。その理由は、この投資法が単なる「資産運用」の枠を超え、高度な知識と胆力が求められる「泥臭い不動産賃貸事業(ビジネス)」そのものだからです。
初心者が地方高利回り物件で失敗する最大の要因は、「自分の実力不足」を見誤ることです。先ほど挙げたような成功しているプロの投資家たちは、運良く満室になっているわけではありません。彼らは、自らホームセンターに足を運んで壁紙を張り替えたり、床にクッションフロアを敷き詰めるDIYの技術(セルフリフォームの力)を持っています。あるいは、相場の半額で工事を請け負ってくれる腕利きの地元の大工やリフォーム業者を、血の滲むような交渉の末に開拓しています。さらに、地元の不動産仲介会社に何度も顔を出し、お茶菓子を差し入れしながら人間関係を構築し、自分の物件を優先的に客付けしてもらうための「強烈な営業力」を有しているのです。
資金力も乏しく、修繕の相場観もなく、どこの馬の骨ともわからない初心者が、いきなり利回りにつられて見知らぬ土地のボロアパートを買ったところで、待っているのは悲惨な搾取です。リフォーム業者には相場の倍の金額をふっかけられ、地元の仲介会社には見向きもされず、家賃を下げても空室は一向に埋まらない。毎月のローン返済は自分の本業の給料から補填(持ち出し)することになり、精神的にも金銭的にも完全に追い詰められてしまいます。
不動産投資の初心者は、まずは「修繕リスクが低く、需要が手堅い都市部の物件」からスタートし、「入居者が退去した際の原状回復」「管理会社とのコミュニケーションの取り方」「確定申告の仕組み」といった賃貸経営の基本(1周目)を学ぶべきです。高い利回りに裏打ちされた高度な問題解決能力(修繕・客付け)が要求される地方築古投資は、十分な資金と知識、そして何より「経営者としての行動力」を身につけた中級者以上が挑戦すべき、ハイレベルなフィールドであると認識してください。
まとめ
ポータルサイトで輝きを放つ「地方の高利回り物件」。しかしその実態は、人口減少に伴う深刻な需要不足と、銀行の厳しい融資姿勢によって生み出された「価格の崩落」による結果(見せかけの数字)に過ぎません。
表面利回りが高くても、長期化する空室と、仲介会社への多額の広告料(AD)、そして安い家賃をいとも簡単に吹き飛ばす高額な「修繕費」によって、手元に残る現実のキャッシュフローは驚くほど少なくなるのがこの投資のリアルです。もちろん、市役所・病院周辺の公的需要エリアや、多様な工場が密集する巨大工業都市など、地道な調査によって高稼働を実現できる「お宝エリア」も存在しますが、それを見抜き、実際に利益を出すためには、DIYスキルや業者開拓力といった「事業家としての極めて高い推進力」が不可欠です。
右も左も分からない初心者が、エクセル上の利回り計算だけを信じて絶対に手を出してはいけない領域、それが地方高利回り投資です。まずは手堅い需要が見込めるエリアで経験を積み、自らの投資家レベル(賃貸経営力)を確実に引き上げること。甘い数字の誘惑に打ち勝ち、リスクの質を正確に査定できる者だけが、不動産投資の世界で生き残ることができるのです。