表面利回りと実質利回りの違いを図解で解説
しかし、不動産投資において、広告にデカデカと掲載されている利回りをそのまま信じて購入することは、最悪の失敗への入り口となります。なぜなら、その多くは諸経費を一切考慮していない「見せかけの数字(表面利回り)」だからです。本当に手元に残る現金(キャッシュフロー)を知るためには、「実質利回り」というもう一つの指標を自分自身で計算しなければなりません。
本記事では、初心者が絶対に理解しておかなければならない「表面利回りと実質利回りの違い」について、具体的な計算式やリアルな投資シミュレーションを交えながら徹底的に解説します。この記事を最後まで読めば、業者の甘い利回りマジックに騙されることなく、どんな物件でも「本当の収益力」を正確に弾き出せるプロの視点を手に入れることができるでしょう。
表面利回りとは
計算式:最もシンプルだが最も危険な数字
「表面利回り」とは、別名「グロス利回り」とも呼ばれ、不動産ポータルサイトや業者のマイソク(物件概要書)に最も大きく記載されている数字です。この表面利回りの計算式は非常にシンプルで、以下の式で求められます。
【表面利回りの計算式】
(年間の満室想定家賃収入 ÷ 物件購入価格) × 100 = 表面利回り(%)
たとえば、物件価格が2000万円で、毎月10万円の家賃が取れる(年間120万円)マンションがあったとします。この場合の計算は「(120万円 ÷ 2000万円) × 100 =
6.0%」となり、表面利回りは6%と表記されます。小学生でも暗算できるほど簡単な計算ですが、不動産投資においてはこの「簡単さ」こそが最大の罠となります。
なぜ高く見えるか:3つの「ない」
表面利回りが異常に高く、魅力的に見えてしまうのには、明確なカラクリがあります。それは、以下の「3つの要素」が全く計算に組み込まれてい【ない】からです。
1. 【空室や滞納が考慮されていない】
表面利回りの計算で使われる「家賃収入」は、あくまで「365日ずっと満室状態が続いた場合」という理想論に基づく数字です。現実には、退去が発生すれば次の入居者が決まるまでに数ヶ月の空室期間が生じますし、家賃の滞納が起きるリスクもあります。広告の「現況利回り(現在入居中の家賃で計算)」や「満室想定利回り(空室分も相場で埋まったと仮定して計算)」は、このリスクを満額無視しています。
2. 【毎月のランニングコストが考慮されていない】
不動産を所有・運営していくためには、毎月必ず現金が出ていきます。管理会社への管理委託費(家賃の5%程度)、区分マンションであれば毎月の管理費や修繕積立金、固定資産税・都市計画税、火災保険・地震保険料などです。表面利回りは、これら「必ず支払わなければならない経費」を家賃収入から1円も引いていません。
3. 【購入時の諸費用が考慮されていない】
計算式の分母を「物件購入価格」としている点も問題です。2000万円の物件を買う場合、支払うのは2000万円だけではありません。仲介手数料、登記費用(司法書士報酬や登録免許税)、不動産取得税、融資手数料など、物件価格の約7?10%の諸費用が別途現金で必要になります。つまり実際に支払う総額は2200万円近くなるにもかかわらず、表面利回りの計算では都合よく「2000万円」だけを分母として計算しているため、必然的に数字が高く算出されてしまうのです。
実質利回りとは
計算式:本当の利益を測る指標
一方、プロの投資家が物件を購入するかどうかを判断する際に必ず用いるのが「実質利回り(ネット利回り /
NOI利回り)」です。これは、先ほど挙げた「3つのない(空室、経費、諸費用)」をすべて現実的な数字として計算式に組み込んだ、極めてシビアな指標となります。
【実質利回りの計算式】
(年間想定家賃収入 ? 年間諸経費) ÷ (物件購入価格 + 購入時諸費用) × 100 = 実質利回り(%)
さらに、堅実なシミュレーションを行う場合は、分子の「年間想定家賃収入」にあらかじめ「空室率(たとえば5%?10%のマイナス)」を掛け合わせてから計算します。この実質利回りこそが、その不動産が持つ「本当の稼ぐ力(純収益力)」を表す唯一の指標と言えます。
経費の種類(家賃から引かれるもの)
実質利回りを正確に弾き出すためには、分子の「家賃」から引かなければならない「経費(ランニングコスト)」を漏れなく把握しておく必要があります。初心者が特に見落としがちな経費項目を列挙します。
・賃貸管理代行手数料:入居者対応や集金を委託する費用(家賃の約5%)
・建物管理費・修繕積立金:区分マンションの場合、毎月管理組合に支払う必須コスト
・固定資産税・都市計画税:毎年1月1日時点の所有者に課せられる地方税(年額1ヶ月?1.5ヶ月分の家賃相当になることが多い)
・火災保険料・地震保険料:物件規模によりますが、一括払いしたものを単年当たりに割り戻して考えます
・原状回復費用・入居募集費用:退去時のクリーニング代や、新たな入居者を見つけてくれた仲介業者へ支払う広告料(AD=家賃1?2ヶ月分)
・共用部の水道光熱費・定期清掃費:一棟アパートやマンションを所有する場合にかかります
これらをすべて差し引くと、実際に手元に残る現金(ネット収入 / NOI=Net Operating
Income)は、満室家賃のおおよそ「70%?80%程度」にまで目減りするのが通常です。つまり「家賃10万円」と聞いても、「実際に自分が自由に使えるお金は7万5千円くらいだな」と頭の中で瞬時に割り引いて考えられるようになることが、実質利回りをマスターするための第一歩です。
さらに引かれる「ローンの返済」と「税金」
実質利回り(NOI)を計算して安心するのはまだ早いです。実際のお金の流れ(キャッシュフロー)を考える上では、ここからさらに「融資(ローン)の元本返済と利息」と「所得税・住民税」が引かれます。銀行の融資を使って物件を購入した場合、手元に残った純収益から毎月数万円?数十万円のローンを返済しなければなりません。
実質利回りがいくら高くても、返済期間が極端に短かったり金利が高すぎたりすると、毎月の返済額が純収益を上回ってしまい、手元にお金が残らない(あるいは毎月赤字で持ち出しになる)「デッドクロス」という危険な状態に陥ります。そのため、実質利回りを計算した後は、必ず「月々のローン返済額」を差し引き、「税引き後(または税引き前)の手残り(税引前キャッシュフロー=BTCF)」がプラスになるかどうかを最終確認する癖をつけてください。
具体例シミュレーション
計算式だけではイメージが湧きにくいと思いますので、ここで実際に販売されている物件を想定した2つのリアルなシミュレーションを行ってみましょう。業者が提示する「表面利回り」が、いかにして「実質利回り」に変化していくのか、その落差に注目してください。
ワンルームマンション例(中古区分)
【物件概要と業者のアピール】
・物件価格:1500万円(都内築15年)
・満室想定家賃:月8万円(年間96万円)
・業者が謳う表面利回り:6.4% (96万 ÷ 1500万)
【実質利回りの計算ステップ】
まず、購入時の諸経費(登記費用、仲介手数料など)を約100万円と見積もります。次に年間の経費(ランニングコスト)を引いていきます。
・管理費・修繕積立金:月1万5千円(年間18万円)
・賃貸管理手数料:月4千円(年間4万8千円)
・固定資産税等:年間約8万円
・退去に備えた空室率・修繕見込み:年間5万円程度と仮定
合計すると、年間の諸経費は約35万8千円となります。満室家賃96万円からこれを引くと、実質の純収益(NOI)は約60万2千円です。
・実質年間収益:60.2万円
・実質投資総額:1600万円(1500万+諸費100万)
・実質利回り:3.76% (60.2万 ÷ 1600万)
いかがでしょうか。広告で「6.4%」と踊っていた数字が、現実の経費を当てはめた途端に「3.7%台」まで急落しました。この3.7%という収益から、さらにローンの利息と元本の返済を行わなければなりません。もし金利2%・期間20年でフルローン(1500万円)を組んでいた場合、年間の返済額は約91万円となり、実質収益60万円を軽くオーバーして「毎年30万円以上の赤字(持ち出し)」が確定してしまうという恐ろしい結果が明らかになります。
一棟アパート例(地方築古木造)
【物件概要と業者のアピール】
・物件価格:3000万円(地方都市、築25年、全6室)
・満室想定家賃:1室4万円×6室=月24万円(年間288万円)
・業者が謳う表面利回り:9.6% (288万 ÷ 3000万)
【実質利回りの計算ステップ】
購入諸費用を7%(約210万円)とします。地方の古い木造アパートは利回りが高く見えますが、その分空室リスクや修繕費が跳ね上がります。
・空室率のマイナス:常に1部屋空いている(入居率83%)と想定=年間マイナス48万円
・修繕費・原状回復費:築古のため年間30万円程度を見積もり
・賃貸管理・清掃費:月1万5千円(年間18万円)
・固定資産税等:年間約15万円
・火災保険料(年割):年間5万円
これらを合計すると、年間の経費+空室損失は約116万円にも上ります。仮定家賃288万円からこれを引いた実質収益(NOI)は172万円です。
・実質年間収益:172万円
・実質投資総額:3210万円(3000万+諸費210万)
・実質利回り:5.35% (172万 ÷ 3210万)
夢のような「約10%」の高利回り物件も、実態を精査すれば「5%台」という現実的な数字に落ち着きます。この5.35%というリアルな数字をベースにして、借入金利や返済年数を逆算し、「月々いくらならキャッシュフローが残るか」を冷静に判断することが、プロの投資家の当たり前の日常作業なのです。
利回り何%なら安全か
「表面利回りに騙されてはいけないことは分かった。では、実質利回りで何%以上あれば安全なのか?」という疑問が当然湧いてくるでしょう。しかし、結論から言うと「安全な利回りに絶対的な基準(〇%以上なら絶対安心)というものは存在しない」のが不動産投資の真理です。
なぜなら、求められる利回りは「物件の構造」「築年数」「エリア」によって全く異なるからです。たとえば、東京都心の築浅鉄筋コンクリート(RC)マンションであれば、退去が出てもすぐに次の入居者が決まり(空室リスクが極小)、家賃の下落も緩やかであり、さらに売却時にも高く売れる(出口戦略が描きやすい)ため、実質利回り3%台でも安全に経営できる(資産価値の保全として意味がある)と判断されるケースが多々あります。
一方、人口減少が進む地方の築30年木造アパートの場合、一度空室になると半年?1年埋まらないこともザラであり、家賃は年々下落し、数百万円の屋根・外壁塗装といった大規模修繕のリスクも常に抱えています。このような物件に投資する場合、将来のリスク(不確実性)をすべて吸収するためには、実質利回りで8%?10%以上(表面利回りなら15%?20%以上)という非常に高いリターンが確保されていなければ、投資金額を回収する前に破綻してしまう危険性が高いのです。
つまり、利回りの高さとは「リスクの高さ(空室になりやすさ、家賃が下がりやすさ)」の裏返し(リスクプレミアム)に過ぎません。利回りの数字だけで投資判断をするのではなく、その物件が立地するエリアの「賃貸需要(どれくらい早く部屋が埋まるか)」を正確に見極める必要があります。この「需要と供給のバランス」を正しく計測できなければ、どんな高利回りも絵に描いた餅に終わります。
初心者が騙されるポイント
利回りの仕組みを理解していない初心者は、悪質な業者にとって最高に都合の良い「カモ」となります。業者がよく使う、利回りを操作して物件を売りつける常套手段(マジック)をいくつか紹介しておきます。
1. 家賃保証(サブリース)を使った見せかけの利回り
周辺相場が月6万円の物件に対し、業者が「毎月8万円で私たちが一括借り上げ(サブリース)しますから安心です!」と持ちかけ、その8万円をベースに高い利回りを計算して販売する手口です。数年後に業者は「相場が下がったので来月から保証額を5万円に下げます」と一方的に減額通告をしてきます。初年度の高い利回りは、高い物件価格で売りつけるための「サクラ(見せ金)」に過ぎません。
2. リフォーム・修繕費の隠蔽
築古アパートで、「表面利回り18%」といった破格の数字で売り出されている物件があります。しかし、現地を見ると室内はボロボロで、到底人が住める状態ではありません。満室にしてこの利回りを出すためには、購入後に500万円以上のフルリノベーション費用が必要になるというオチです。このリフォーム費用を「購入時諸費用(分母)」に足して実質利回りを計算し直すと、結局は普通の(あるいはそれ以下の)物件になってしまいます。
3. 高すぎる想定家賃設定(レントロールの偽装)
空室の部屋の「想定家賃」を、現状の相場を完全に無視して高く設定し、満室時の利回りを無理やり引き上げているパターンもあります。ひどいケースでは、売却直前に関係者を相場より高い家賃で一時的に入居(サクラ入居)させ、利回りを良く見せて高く売り抜け、購入直後に即退去されるという悪質な詐欺まがいの手法も存在します。
まとめ:厳しい数字と向き合う覚悟を
不動産広告に表示されている「表面利回り」は、あくまで物件を検索・スクリーニングする際の「入り口の目安」に過ぎません。その数字をそのまま信じて投資シミュレーションを行い、銀行のローンを組むことは、目隠しをしたまま高速道路を逆走するのと同じくらい危険な行為です。
不動産投資の本質は、「いかに冷静に悲観的なシミュレーション(実質利回り・NOIの算出)を行い、最悪のシナリオでも手出しがなく、安全にローンを返済し続けられる物件を見極めるか」というディフェンス(守り)の技術に他なりません。
・表面利回りの高さ(甘い誘惑)に決して踊らされないこと。
・経費、空室リスク、修繕費、そして購入諸経費を徹底的に洗い出し、自分自身の手で「実質利回り」を計算できるエクセルを組むこと。
・利回りの高さは「リスクの裏返し」であることを肝に銘じ、エリアの空室率や賃貸需要とセットで俯瞰的に判断すること。
この3つの鉄則を守り、業者が出してくるバラ色のマイソク(図面)に斜線を引いて、赤ペンでシビアな「本当の利回り」を書き込めるようになった時、あなたは初心者という殻を破り、一人前の不動産投資家としてのスタートラインに立つことができるのです。資産形成の道は、厳しい現実の数字から逃げず、真正面から向き合うことから始まります。